レーガンは英雄か悪者か?
『トランプ大統領』の誕生が決まって以来、比較対象として再注目されている感のある、レーガン元大統領。
ロン・ヤス関係
レーガン、と聞いてアラフィフの私の脳裏に真っ先に現れるイメージ画像は、囲炉裏を前に、ナンシー夫人とともに変なちゃんちゃんこを着せられて、『ヤス』こと中曽根元首相にお茶をふるまわれている光景。
レーガン悪者説
近年、追加された情報としては、
- 数年前に見た、マイケル・ムーア監督の『キャピタリズム~マネーは踊る プレミアム・エディション [DVD]』の中で、格差社会の始まりはレーガンの『小さな政府』だと言っていた。
- ポール・クルーグマンも『経済政策を売り歩く人々―エコノミストのセンスとナンセンス (ちくま学芸文庫)』で同様のことを言っている。
- 経済史のテキスト『図説 西洋経済史』にも、『レーガノミクス』がアメリカ産業の空洞化をもたらした、とあった。
等、レーガン悪者説多し。
最も偉大なアメリカ人
一方、こちらの本『レーガン - いかにして「アメリカの偶像」となったか (中公新書) 』によれば、レーガンは世論調査でケネディやリンカーンを抑えて『最も偉大なアメリカ人』に選ばれるなど、人々から敬愛されているという。
ただし、
レーガンは後年ほとんど崇拝の対象になったが、在職中には知性に欠ける元B級映画俳優と軽蔑され、危険なタカ派として、その政策やイデオロギーはしばしば激しい非難にさらされた。
この評価の激しい変動は、何なんだろう?
政治的変節と初のバツイチ大統領
レーガンは貧しいアイルランド移民の末裔として生まれ育ち、世界大恐慌の最中に大学を卒業して、地方のラジオ局にアナウンサーの職を得た。当然、彼はフランクリン・D・ローズヴェルト大統領とニューディール政策の熱心な支持者であり、父に倣って民主党員となった。
しかし、1960年代には、レーガンは富裕層に囲まれて共和党保守派の希望の星となり、やがて大統領になると、アメリカ政治の保守化を推進した。
レーガンの父はカトリックでアルコール依存症、母は敬虔なプロテスタントだった。
この二元性がレーガンの人格の根底にあり、父を反面教師としていたことが、権威、体制への順応や、保守派への傾倒につながった、というのがこの本『レーガン - いかにして「アメリカの偶像」となったか (中公新書)』の著者の見立てであった。
そして、大統領就任後のレーガンは、
『小さな政府』と『強いアメリカ』を標榜しながら、結果的には着任時の3倍に上る膨大な財政赤字を残し、ソ連との和解に着手し冷戦の終焉に貢献して、政権を去っていったのである。
なんだか、矛盾をはらみつつ、両極を行ったり来たりしているような印象を受ける。
ちなみに、歴代のアメリカ大統領の中で、離婚歴があるのは、レーガンただ一人(トランプ氏が2番目になる)なのだそう。それでいて、家族の絆を人々に説いたレーガン。
おもしろいエピソードとして、レーガンは学生時代、水難救助員のアルバイトをしており、その6年間にレーガンが独力で救助した水難者は77人にも上る。
時には、溺れていない人まで『救助』したこともあったそう。
レーガン本人は、救世主、ヒーローとしての自意識をもっていたのかもしれない。
レーガン流ジョーク
ラジオのスポーツアナウンサーとしてキャリアをスタートさせたレーガンは、政治家になってからも、機転や当意即妙の話術を発揮する。
本書に出てきた、レーガン流ジョークをいくつか。
◆大統領になる秘訣
「なぜ私が大統領になれたか、その秘密をお教えしよう。私には9つの才能がある。第一は卓越した記憶力、第二が、ええっと何だったかな」
◆大統領は昼寝中?
大統領就任時、すでに69歳だったレーガン。高齢の大統領は毎日昼寝をとり、あまり働かないと批判されると、こう切り返した。
「緊急時にはいつでも私を起こすようにと命じてある。たとえ閣議の最中でも例外ではない」
◆命がけのジョーク
出色は、暗殺未遂事件(1981年)で銃弾を受け、瀕死の重傷を負った際の一連の言動。
担架で運ばれている最中に意識を取り戻したレーガンは、自分の手を握っていた看護師の女性に、「ナンシーには内緒だよ」とつぶやいた。
駆け付けた妻ナンシーには、「ハニー、頭を下げてかわすのを忘れたよ」。
さらに、手術室に運ばれると、医師たちを見まわして、
「あなた方がみな共和党員だといいんですがね」
医師もそれにこたえて、
「大統領閣下、今日はわれわれ全員が共和党員です」(本当はその医師は民主党員だった)
ちょっとできすぎのエピソードにも思えるけど、生死の境にあってなお、こんなユーモアを発揮する胆力を見せつけられたら、たとえ自分とは政治信条が違っていたとしても、支持したくなってしまいそうだ。
一方で、映画俳優協会の委員長をつとめていた頃には、映画業界の共産主義者を、公聴会ではかばいながら、裏でFBIに情報提供していた等、老獪な一面も。
アメリカでは、膨大な数のレーガンの伝記が発行されているそうで、それもよくわかる気がする。
英雄か、はたまたワルモンか?
一筋縄ではいかぬ人物だからこそ、今なお人をひきつけてやまないのかも。
80年代のアメリカ経済と外交
本書『レーガン - いかにして「アメリカの偶像」となったか (中公新書) 』はもちろん、レーガンが主役だけど、後半は特に、アメリカ経済と外交について、くわしく語られているので、経済史の参考文献としてもよさそう。
個人的には、経済史Ⅰのリポートを書く前に読んでおくべきだった。
レーガン的四文字熟語
この本の中に、難しい四文字熟語がたくさん出てきたので、備忘メモ。(意味はgoo辞書調べ)
- 毀誉褒貶(きよほうへん):
ほめたりけなしたりすること。そしりとほまれ。また、ほめたりけなしたりする世評。世間の評判。 - 鎧袖一触(がいしゅういっしょく):
相手をたやすく打ち負かしてしまうたとえ。弱い敵人にたやすく一撃を加えるたとえ。鎧の袖がわずかに触れただけで、敵が即座に倒れる意から。 - 捲土重来(けんどちょうらい):
一度敗れたり失敗したりした者が、再び勢いを盛り返して巻き返すことのたとえ。巻き起こった土煙が再びやって来る意から。 - 合従連衡(がっしょうれんこう):
その時の利害に従って、結びついたり離れたりすること。また、その時勢を察して、巧みにはかりごとをめぐらす政策、特に外交政策のこと。
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